「どのくらいの頻度でメンテナンスすればいいですか?」
これはシンプルな質問です。
しかし、この問いの背景には、時計に対するさまざまな思いが混ざっています。
愛着。費用への不安。手放す期間への抵抗。そして、「できればこのまま使い続けたい」という気持ち。答えはいつも同じです。
「症状が出る前に、5年以内に一度は出してください」
見えない劣化という問題
時計は、症状が出にくい道具です。オイルが劣化しても、パッキンが傷んでも、時計はしばらくの間、何事もなかったように動き続けます。
部品は少しくらい劣化しても、時計はちゃんと動くことが多いです。
見た目は変わらない。時間も正確に刻まれる。
これが、時計のメンテナンスを難しくしている本質的な理由です。

5年も使えば、内部のオイルは確実に劣化しています。ゴムパッキンも同様です。
これは使い方や保管状況に関わらず、時間の経過とともに起きることです。
どれだけ丁寧に扱っても、避けることはできません。
そして「防水」という、誤解されやすい性能。
「ロレックスだから防水は大丈夫ですよね?」
「シーマスターって潜水用じゃないですか」
こうした言葉も、店頭では頻繁に聞かれます。防水性能への信頼は、ブランドへの信頼と重なっています。その感覚は間違っていませんが、防水性能には前提条件があります。
防水性能は、ゴムパッキンによって保たれています。
そのパッキンが経年劣化すれば、どれほど高性能な防水時計であっても、やがて「非防水時計」になってしまいます。
修理店として正直に言うと、水分によるダメージが最も多く持ち込まれるのは、ロレックスと、オメガのシーマスターです。これは母数の多さもありますが、「防水だから大丈夫」という安心感が、メンテナンスへの意識を遠ざけてしまっているのだと思っています。
信頼できるブランドの時計であるからこそ、その性能を維持するための習慣が必要です。
メンテナンスをしなくて済む方法という、存在しない答え
店頭でお客様と話していると、ふと気づくことがあります。
「この方は、メンテナンスをしなくて済む方法を探しているのかもしれない」と。
気持ちはよく理解できますが、オーバーホールはそれなりの費用がかかります。
さらに約1ヶ月半という期間、手元から時計が離れます。
愛着のある時計であればあるほど、その期間は長く感じるものです。
しかし、メンテナンスをしなくて済む方法は存在しません。
あるのは、メンテナンスをしないことで生じるリスクを知っておくこと、それだけです。
オイルの劣化は、部品同士の摩耗を加速させます。
パッキンの劣化は、水分の侵入を招きます。
侵入した水分は、針や文字盤、夜光塗料を内側からゆっくりと侵食します。
これらはすべて、静かに、時間をかけて進みます。
気づいた時には時すでに遅し。
まず、知っておくことが最良のメンテナンスなのです。
時計と長く付き合うために必要なのは、特別な知識や高価な道具ではありません。
何が時計にダメージを与えるのかを理解しておくこと。それだけで、時計との関わり方は変わります。
5年という目安は、厳密な数字ではありませんが、その期間の間に、オイルは劣化し、パッキンは傷み、防水性能は静かに低下していくのです。それが現実なのです。
症状が出てから修理するのではなく、症状が出る前にメンテナンスをすることを強くお勧めします。その習慣が、結果として時計の寿命を大きく左右するのです。

時計は機械です。
しかし長く使い続けた時計には、機械を超えた何かが宿ります。
その「何か」を守るために、メンテナンスという静かな習慣があります。
御徒町に創業50年のカナルクラブでは、複雑機構を含む高級機械式時計の点検・オーバーホールを承っています。時計のメンテナンスの際は、お気軽にご相談ください。
同じカテゴリの記事






