時計と長く生きるために|メンテナンスという、静かな習慣  

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時計修理の店頭では、毎日のようにある質問を受けます。
「どのくらいの頻度でメンテナンスすればいいですか?」シンプルな質問です。
しかし、この問いの背景には、時計に対するさまざまな思いが混ざっています。
愛着。費用への不安。手放す期間への抵抗。
そして、「できればこのまま使い続けたい」という気持ち。
答えはいつも同じです。
「症状が出る前に、5年以内に一度は出してください」

■見えない劣化という問題

時計は、症状が出にくい道具です。
オイルが劣化しても、パッキンが傷んでも、時計はしばらくの間、何事もなかったように動き続けます。部品は少しくらい劣化しても、時計はちゃんと動くことが多いです。
見た目は変わらないし時間も正確に刻まれます。
これが、時計のメンテナンスを難しくしている本質的な理由です。

気づいた時には、すでに大きなダメージを負っています。5年も使えば、内部のオイルは確実に劣化しています。ゴムパッキンも同様です。
これは使い方や保管状況に関わらず、時間の経過とともに起きることです。
どれだけ丁寧に扱っても、避けることはできません。

■防水という、誤解されやすい性能

「ロレックスだから防水は大丈夫ですよね?」
「シーマスターって潜水用じゃないですか」

こうした言葉も、店頭では頻繁に聞かれます。
防水性能への信頼は、ブランドへの信頼と重なっています。
その感覚は間違っていません。ただし、防水性能には前提条件があります。防水性能は、ゴムパッキンによって保たれています。そのパッキンが経年劣化すれば、どれほど高性能な防水時計であっても、やがて非防水時計になってしまいます。

修理店として正直に言うと、水分によるダメージが最も多く持ち込まれるのは、
ロレックスとオメガのシーマスターです。
これは母数の多さもありますが、「防水だから大丈夫」という安心感が、
メンテナンスへの意識を遠ざけてしまっているのだと思っています。

信頼できるブランドの時計であるからこそ、
その性能を維持するための習慣が必要です。

 

■メンテナンスをしなくて済む方法という、存在しない答え

店頭でお客様と話していると、ふと気づくことがあります。
「この方は、メンテナンスをしなくて済む方法を探しているのかもしれない」と。

気持ちはよく理解できます。オーバーホールはそれなりの費用がかかります。
さらに約1ヶ月半という期間、手元から時計が離れます。
愛着のある時計であればあるほど、その期間は長く感じるものです。

しかし、メンテナンスをしなくて済む方法は存在しません。
あるのは、メンテナンスをしないことで生じるリスクを知っておくこと、
それだけです。

オイルの劣化は、部品同士の摩耗を加速させます。
パッキンの劣化は、水分の侵入を招きます。
侵入した水分は、針や文字盤、夜光塗料を内側からゆっくりと侵食します。

これらはすべて、静かに、時間をかけて進みます。
だから気づきにくい。だから、気づいた時には遅い。

 

■知っておくことが、最良のメンテナンスである

時計と長く付き合うために必要なのは、特別な知識や高価な道具ではありません。

何が時計にダメージを与えるのかを理解しておくことです。それだけで、時計との関わり方は変わります。5年という目安は、厳密な数字ではありません。ただ、その期間の間に、オイルは劣化し、パッキンは傷み、防水性能は静かに低下していきます。それが現実です。

症状が出てから修理するのではなく、症状が出る前にメンテナンスをする。その習慣が、結果として時計の寿命を大きく左右します。

■どうかその時計と一緒に、長い人生をお楽しみください。

時計は機械です。
しかし長く使い続けた時計には、機械を超えた何かが宿ります。
その「何か」を守るために、メンテナンスという静かな習慣があります。

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こちらのコラムでは主に初めてオーバーホールする方に向けてぜひ知っておいていただきたいことを書いています。

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