時計を美しく老いさせるために —経年変化と腐食のあいだにあるもの—

CATEGORY:

時計は、使えば変わります。
針が少しずつ黄ばんでくる。夜光塗料がアイボリー色に変わっていく。
文字盤にも、うっすらとした色の変化が現れてくる。

こうした変化を前にしたとき、人は二つに分かれます。
「これが味だ」と受け入れる人と、「直したい」と感じる人です。
どちらが正しいという話ではありません。
ただ、その変化が何によって起きているのかを知っておくことは、
時計と長く付き合っていくうえで、大切なことだと思っています。

 


■ 経年変化という言葉の意味

時計愛好家のお客様も多いカナルクラブでは、
こうした変化を「美しく老いさせる」と表現することがあります。

使い込まれた時計には、新品にはない空気があります。
「年代物のロレックスの文字盤に浮かぶクリーム色。」
「夜光塗料が変化した独特のアイボリー。」
「針の表面に刻まれた細かな傷。」

これらは時計が刻んできた時間の痕跡であり、その個体だけが持つ固有の履歴です。
コレクターの世界では、自然に変色した文字盤を「トロピカル」と呼び、
むしろ高く評価する文化があります。
それは単なる好みの問題ではなく、その変化が時計の歴史を物語っているからです。

経年変化は、取り除くべきものではありません。
時計が生きてきた証として、そのままにしておいていい。

ここでのポイントは劣化はゆっくりさせるということです。
漠然としていますが、コツとしては「劣化させないようにしよう。」と思うことです。 

どっちみち劣化はするのでそのスピードを遅らせることがコツになります。

 

■ 腐食は別の話

腐食は急激な劣化の際に起こると思ってください。

針の表面がガサガサになってくる。
変色が斑状に広がり、金属の光沢が失われていく。
夜光塗料が剥落し始める。

こうした症状は、経年変化というより腐食です。
そしてその根本的な原因は、ほぼ例外なく水分です。

時計内部に侵入した水分が、針や文字盤、夜光塗料を内側から侵食していく。
腐食が進めば、針の交換が必要になります。
文字盤の交換が必要になることもあります。
いずれも、相応のコストと手間がかかります。

経年変化と腐食。
見た目には似ているようで、その性質はまったく異なります。


■ 防水性能という、見えない前提

「防水時計なのに、なぜ水分が入るのか」
こう疑問に思われる方は少なくありません。

防水性能は、購入時点での性能です。
時計内部のパッキンやガスケットは、経年によって少しずつ劣化していきます。
ゴム素材は硬化し、弾力を失い、やがて密閉性が保てなくなります。
外側からは何も変わっていないように見えても、防水性能は静かに、確実に低下していきます。

そしてもう一つ、厄介な問題があります。
水分が侵入しても、すぐには症状が出ないことです。

内部に入り込んだわずかな水分は、
じわじわと時間をかけて金属を侵食していきます。
気づいた時には腐食がかなり進行している、というケースが少なくありません。
ロレックスやオメガのような高級時計も例外ではありません。
防水性能が高いからこそ、その劣化に気づきにくいという側面もあります。


■ 劣化を避ける方法は、一つしかありません

では、腐食を防ぐにはどうすればいいか。

「使い方に気をつける。」「保管場所を工夫する。」
そうした努力も無意味ではありませんが、根本的な解決にはなりません。
防水性能そのものが低下している以上、
水分の侵入はいつか必ず起きます。

腐食を防ぐ方法は、一つだけです。
防水性能を定期的に点検し、パッキンを交換し続けること。
これだけが、水分侵入を防ぐ唯一の手段です。

目安として、5年以内に一度のオーバーホールをお勧めしています。
オーバーホールでは、防水性能の点検とパッキン交換も行います。
大がかりに感じるかもしれませんが、
腐食が進んでから針や文字盤を交換するコストと比べれば、
定期的なメンテナンスの方がずっと合理的です。

そして何より、
腐食してしまった針や文字盤は、交換すれば新しくなります。
しかしその時計が刻んできた「経年変化の痕跡」は、
一度失えば戻りません。

美しく老いさせるためには、内側を守り続ける必要があるのです。


■ 経年変化と腐食を見分けるために

軽い変色や夜光塗料の色の変化は、時計が歩んできた時間の証です。
それはそのままにしておいていい。

しかし表面がガサガサになる、斑状に腐食が広がるといった症状は、
内部への水分侵入のサインかもしれません。
その場合は見た目の問題としてではなく、防水性能の問題として考える必要があります。
時計の外側に現れる変化の奥に、何が起きているかを知ること。

それが、時計を美しく老いさせるための、最初の一歩だと思っています。

同じカテゴリの記事

SEARCH

MESSAGE

こちらのコラムでは主に初めてオーバーホールする方に向けてぜひ知っておいていただきたいことを書いています。

カナルクラブではオーバーホールの大切さを知っていただき、大切な腕時計の価値を長持ちさせていただきたいと思っております。

ご不明点がございましたらお気軽にお問い合わせください。