見直すという行為 

時計は、1本あれば十分だと思っていました。
時間を知るだけなら、それで足りる。
それでも人は、時計を手放しません。
壊れていなくても。毎日使っていなくても。止まっていたとしても。

理由は、案外はっきりしています。
時計を手放す、という行為は、単にモノを減らすことではありません。その時計と過ごした時間を、自分の人生から切り離すことでもある。

また時計を見直すという行為があります。
それは、買い替えることでも、手放すことでもありません。

もう一度、その時計を正面から見ること。

今の自分の感覚で、触れてみること。腕に乗せてみること。あるいは、ケースから出して、
ただ眺めてみること。それだけです。不思議なもので、見直すとき、人は時計ではなく自分のほうを見ています。この時計を選んだ自分は、どんな時間を生きていたのか。
私自身も初めてロレックスを購入した日<20年前〉のことを鮮明に覚えています。その時の嬉しさや時計を大切に使おうって気持ちが懐かしくもあります。

Canal Clubに時計を持ち込まれる方に使用頻度を聞くと、意外にも「月に2~3回です」という方が多いのですがそれでも、オーバーホールをしたい。ちゃんと動く状態に戻したい。安心できるところに預けたい。そういう方が案外と多いのです。

見直すという行為は、時計を単に元の状態(つまり動くように)戻すことではありません。
いまの自分と、その時計が持つ時間とを、もう一度同じ場所に並べてみること。そして、「まだ一緒にいられるな」と思えたら、それで十分なのです。

その静かな行為の中に、時計と人との関係の本質があるのだと思います。

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