持つ ことが生む静かな変化
時計を手に入れる瞬間、人は少し特別な気持ちになります。
時計を購入した時の気持ちを思い出してみてください。店員さんが丁寧に包装している間、待っている私、それはとても嬉しさと幸せの気持ちで満たされていたはずです。箱を開け、手に取ったそのとき、心の奥で小さく“何かが始まる”音がします。
所有のはじまり──新しい刺激の快楽
針の動き、ケースの光、リューズの抵抗。
それらすべてが感覚を満たし、しばらくのあいだ、時間を見るたびに胸が高鳴ります。けれど、この初期のときめきは永遠には続きません。
やがて“慣れ”が訪れ、時計は日常の一部へと静かに溶け込んでいきます。
慣れと飽き──「刺激」から「存在」へ
「飽きた」と感じるとき、多くの人は時計への興味が薄れたと考えます。
けれど、心理学的に見れば、それは“関係が変わる”兆しでもあるのです。新鮮さが消えたあとに残るのは、静かに寄り添う“存在”としての時計。つまり、刺激が薄れたことで、ようやく“共にある時間”が始まるとも言えます。毎日同じ時計を着けることに、退屈ではなく、落ち着きを感じ始めるとき。それが「所有」が“安定”へと変わる瞬間です。実際、オーバーホールでお預かりさせていただく期間(平均1か月半)の間、時計がなくて寂しいと思っている方は多いようです。
所有が生む安心と自己像
人は時計を「時間を知るため」だけに所有しているわけではありません。
そこには、“自分がどう在りたいか”という願いが静かに映り込んでいます。
ビジネスの場で見られたい姿。
日常の中で感じたい自信。
誰にも言わないけれど、時計はそのすべてを無言で支えています。つまり、所有とは“自己像の投影”でもある。自分の理想を、手首の上に置いて確かめている。その小さな儀式が、人に静かな安定をもたらします。
「持ち続ける」という成熟
手に入れて終わりではなく、
使い、手入れをし、時に修理をしながら時計と関係を続けていく。
オーバーホールに出す時、多くのオーナーはほんの少しの“寂しさ”を覚えます。店頭でのユーザー様がよく「時計がないと寂しくて・・」なんてことをよくおっしゃいます。
そして、再び戻ってきた時計を腕に巻くとき、「おー、これこれ、久々だな」と笑顔になります。
時計が映す、あなたの内側の時間
所有は、人の内面を映し出します。
長く持つほどに、その人の“時間感覚”が育ち、
時計の扱い方に、心の成熟がにじみ出る。
無意識のうちに、人は自分の時計とともに成長しているのです。あなたにとって、
その時計を“持つ”とはどんな意味でしょうか?
安心の象徴でしょうか・・
理想の投影でしょうか・・
それとも、人生の流れを感じるための“静かなパートナー”でしょうか。
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